パイナップルの始まり

ごきげんよう。クンクン博士じゃ。

トロピカルフルーツの代表格パイナップル。タガログ語で「ピニャ(Pina)」と呼ばれとるこの果実は、ジュース、食後のデザートや料理の食材として、世界中の人々に親しまれておる。

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胃腸を掃除してくれる食物繊維、新陳代謝を活発にしてくれるビタミンB1、風邪をひきにくくするビタミンC、高血圧を予防してくれるカリウム、骨を丈夫にしてくれるカルシウムなど、ヘルシーな栄養素やミネラルが豊富に含まれとる、健康と美容によい果物じゃ。また、低カロリーなので、ダイエットフードにもなる。

ちなみに8月17日は、パイナップル食品の製造大手ドールが「パイナップルの日」に制定しとる。

今回は、そんなパイナップルにまつわるフィリピンの民話を紹介しよう。

昔々、あるところに、「ピーナ」っちゅー名前の少女が母親と二人で住んでおった。

いわゆる母子家庭じゃな。フィリピンではシングルマザーの家庭はさして珍しくはないが、ファミリーの絆が強いこの国では、結婚後も両親や兄弟と一緒に住み、生活面で親族の強力なサポートが得られる場合が多い。ピーナん家のように母娘二人だけで暮らしとるのは、特殊なケースといえるじゃろう。

文字通り「女手一つ」でピーナを育てとる母親は、仕事、育児、家事に大忙し。時には娘の手も借りたいって時もあるわけじゃ。

ところがこの「ピーナ」っちゅー名前のピーナ、遊び盛りの年頃なのか、毎日毎日裏庭でスマホをいじっとって、家事の手伝いを一切しようとせん。たまに母親が「ちょっとそこの箒取ってくれる?」と頼んでも、目の前にぶら下がっとるっちゅーのに「えー?どこー?見えなーい」とか言うて、手を伸ばそうともせん。まさに「遊び以外は眼中にない」を地で行く子だったんじゃ。

叱ってもおだてても一向にピーナの「見えなーい」病が治る気配がないので、仕方なく母親が全てを一人でやっとったんじゃが。

ある日、母親が病気になってしもうた。

ヤバイ。ベッドから起き上がれない。もうこうなったら、意地でもピーナに働いてもらうしかない。

力を振り絞って窓から身を乗り出し、いつものように裏庭でスマホをいじっとる娘に声をかけた。

母「ピーナちゃんゴホゴホ ママお腹すいちゃった。ちょっとお粥をゴホゴホ つくってくれない?ゴホッ」

ピーナ、ガン無視してスマゲーに没頭

母「ちょっと聞いてんの?ゴホ ママ病気なのゴホゴホ 簡単よ お鍋にお米入れて水入れて火にかければいいの お願いだから」

ピーナ、ガン無視続行

母「ピーナ?」

ピーナ「…」 ピコピコドカンドカーン

母「…プチッ ざっけんじゃねえぞクソガキャアア!言うこと聞かんと、そのスマホを粥にしちまうぞグォラアア!」ゼエゼエハアハア ウッゲホゲホ

ピーナ(チッ もう少しでゲームクリアできるとこだったのに…)渋々立ち上がり、グズグズノロノロとママの部屋に向かう

ピーナ、部屋のドアから顔だけ出して「なあに?ママ」

母「だから、粥を(ry」

病魔に侵されて幽鬼のような形相の母の剣幕に圧され、やっと台所に立ったピーナじゃったが、なにやらゴソゴソと動き回る音ばっか聞こえてきて、一向にコンロに点火する気配がない。

それでも母親は辛抱強く待っとったが、約3時間後に裏庭へのドアが開く音がした。あっアイツ逃げやがった!

怒りと病でクラクラする頭を押さえながら、母親はまたもや窓から身を乗り出し、できるだけ優しい声で、しれっと裏庭におる娘に声をかけた。

母「あの…ピーナちゃん?頼んでたお粥はどうなったのかな?」

ピーナ、スマホから目を離さず「作ってなーい」

母「イラッ そうなんだ…それはなぜなのか、教えてくれる?」

ピーナ「お玉が見つかんなーい」 ピコピコ

母「はあ?いやいやいや、台所入ってすぐのところに置いてあるって!見つかんないはずないって!」

ピーナ「そうなん?たまたま見えんかっただけかなー お玉だけにー」 ピシュンピシュン

母「見えんかったってアンタ…」

ピーナ「あっゴメンちょっと話しかけないで… っしゃあああ!レアアイテムゲットオオオ!(嬉々)」

母「ブッチーン …あ…あはっ…あっはははは!そうなの?見えんかったの?どうせアンタ、探そうともしなかったんでしょ!あははっ!アタシったら、なんでアンタなんかに期待しちゃったんだろ?バカじゃん?」

母「アンタみたいな子には、目が2つだけじゃ全然足りないのかもね!うん!そうよ!もっとたくさんなきゃダメなのよきっと!もーホント、顔中目だらけーみたいな?こんにちはー妖怪百目ですーみたいな?そ-なってやっと見えるようになるのよ!きゃははははは!(錯乱)」

一気にそうまくしたてると、母親は怒りのパワーに物を言わせて台所に駆け込むや、猛スピードで粥を作って食い、寝室に駆け戻って寝ちまった。

翌日、ピーナがおらんことに気づいたんじゃが、前日の「お粥騒動」で体力を使い果たしちまった母親には、もはや娘を探す気力は残っとらんかった。

仕方ないので「手伝いたくないもんだから、友達の家にでも転がり込んでるんだわ きっとそうよ」と自分に言い聞かせ、とりあえず病気の回復を優先することにした。

いっつも一人でスマホをいじっとるような子に、泊まりっこできる友達がおるとは思えんが… まあ、病気で動けん身としては、そうでも思わんと精神が保たんのじゃろう。

ところが、数日たっても数週間たっても数ヶ月たっても、ピーナは依然として行方不明のまま。不思議なことに、「お粥騒動」から誰一人ピーナの姿を見た者がおらず、文字通り「消えて」しもうた。

粥ごときで娘を叱ったことを大いに後悔するも、時すでに遅し。叱られた途端にいなくなるメイドやヤヤのように、もう娘は帰ってこないのかもしれないと諦め始めた。

幼い一人娘が行方不明になったってのに、ずいぶん諦めが早い気もするが、いつまでも悲しんでたって家賃や電気代や水道代の請求は毎月やって来るし、食費だってかかる。頼れる者がおらず、たった一人で毎日生活に追われとる彼女は、娘の捜索だけをしとるわけにはいかんのじゃろう。

そんなある日、母親が裏庭を掃除しとったら、最後にピーナを見かけた場所に、奇妙な草が生えとるのに気がついた。

そこらへんの雑草と違い、草の一本一本が固くて逞しい。それだけでなく、その草は魅力的なゲームで課金を誘うガチャのように、強烈な甘い香りを辺り一面に放っておった。

草ごと引っこ抜いてみると、人間の頭部くらいのサイズの異様な物体が土の中から現れた。その表面には、まるで眼のような模様がびっしりと刻まれておった。

「うっわ何これ…妖怪百目の頭みたい…はっ! も、もしやこれは!」

あの日、怒りに任せて娘に放った呪いの言葉が脳裏をよぎった。

アンタみたいな子には、目が2つだけじゃ全然足りないのかもね!うん!そうよ!もっとたくさんなきゃダメなのよきっと!もーホント、顔中目だらけーみたいな?こんにちはー妖怪百目ですーみたいな?そーなってやっと見えるようになるのよ!きゃははははは!

「そ、そんな…本当に妖怪百目(のようなもの)になっちゃうなんて…」

自らの言霊(ことだま)によって、我が子を異形の果物に変えてしまったことを悔いた母親は、せめてもの償いとして、この奇妙な果実に我が子と同じ「ピーナ」という名前を付け、大切に育てることにした。

やがて「ピーナ」は裏庭を埋め尽くし、甘い香りと甘酸っぱくて爽やかな味が多くの人々を魅了していった。そして、名前がいつの間にか「ピーナ」から「ピニャ」に変わっちまったっちゅーことじゃ。

おしまい。なお、「体はどこいった?」なんちゅー無粋な質問には答えんので、そのつもりで。

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