ダマ・デ・ノーチェの伝説

ごきげんよう。クンクン博士じゃ。
フィリピンに、「ダマ・デ・ノーチェ」っちゅう名の植物がある。
ナス科の常緑低木で、学名を「CESTRUM NOCTURNUM」という。日本では「ヤコウカ(夜香花)」とも「ヤコウボク(夜香木)」とも呼ばれておる。英語では「Night Blooming Jasmine」または「night jessamine」というそうな。西インド諸島を原産地とし、主に観賞用に栽培されとる。
この植物は、「夜香花」の名が示す通り、夜間に花を咲かせて非常に強く香ばしい匂いを当たり一面に漂わせるのが特徴じゃ。その香りは「世界一香りの高い花」といわれるほど強烈で、50メートル周囲にまで及ぶという。
ところで、「ダマ・デ・ノーチェ(Dama de Noche)」とはスペイン語で「夜の貴婦人」という意味らしい。
「夜」は分かるが、なぜ「貴婦人」なのか?実は、フィリピンにはそんな疑問に答えるような伝説がある。
昔、あるところに超リッチな男がおった。毎日仕事もせんと上流階級の取り巻き連中と派手に遊びまくり、高価なワインを飲み、うまいものを食べ、高級車を乗り回し、美女たちをはべらして、優雅な独身貴族ライフを満喫しておったそうな。
しかし、そんな彼にも結婚を考える時がきた。
「独身生活にもそろそろ飽きてきたな。周りの奴等も所帯持ち始めて付き合い悪くなるし、俺もここらでちょっくら婚活でも始めるか」
いうまでもないことじゃが、結婚には相手が必要じゃ。そこで男は、今まで付き合ってきた大勢の上流階級の美女たちの中で、結婚相手として自分に最もふさわしい相手は誰かを考えてみた。
「マリアちゃんは、華やかさはあるけど軽いんだよなー。イサベルちゃんはSMプレイの女王様役としては最高なんだけど、結婚相手としてはちょっとな...リサちゃんはいかにもお嬢様って感じでそそるんだけど、家事まるでダメだし...」
結局、上流階級のきらびやかな女性たちにも飽きたということで、フツーの家庭のフツーの女性を探すことにした。こうしてめぐり合ったのが、ダマという名の女の子じゃった。
ある中流階級の長女として育ったダマは、兄弟の面倒をよく見る優しい子じゃった。がんばり屋でしっかり者、学校では常に委員長、頑固で言い出したらきかない、恋愛には慎重、でもダメ男にひっかかりやすい、などなど、典型的な長女の性格を持った子じゃった。好きになった相手にはとことん尽くし、若干自虐の気があるのは、うお座だからなのかもしれん。
そして二人はめでたく結婚し、幸せな日々が続いた。
ダマは、妻としてまったく非の打ち所のない女性じゃった。夫に惜しみなく愛情を注ぎ、炊事、掃除、洗濯、家計から犬の世話まで、家事の一切を完璧にこなしとった。
ところが、幸せな新婚生活も長くは続かなかった。果たして、というか、やっぱり、というか、男は結婚生活にも、良妻ダマにも飽きてしもうたんじゃ。
よくよく飽きっぽい性格の男じゃな。ひょっとしてこやつ、ふたご座か?
こうなると、長らく遠ざかっていたかつての華やかな生活が無性に恋しくなる。男のライフスタイルは次第に昔の独身時代のそれに戻っていき、家に帰らない日が多くなった。
...いるんじゃよな~。現代にもこういう、いつまでたっても独身気分が抜けきれん、夫としての自覚のカケラもない男が。
日に日に冷たくされ、疎ましがられるダマ。夫の感情の変化に戸惑いと不安をおぼえながらも、「いつか元の彼に戻ってくれる」と信じながら、一人ぼっちでひたすら夫の帰りを待つ孤独な日々に耐えておった。
なに?「犬がいるから、一人ぼっちじゃないだろ」じゃと? うむ。ま、そういわれれば、確かにそうなのじゃが...
...
話を戻そうかの。
一方、ダマが何もいわんことをいいことに、男の放蕩ぶりはますますエスカレートしよった。一週間家を空けることはザラ。やっと帰ってきたと思えば、出迎えるダマを完全シカト。夫婦の聖域ともいえる寝室で、携帯使って懸命に女を口説いとる姿を見るに至り、ダマは夫の心がもはや自分の手の届かない、はるか彼方にふっ飛んでしまっとるのを悟ったんじゃ。
男は例によってまたすぐどっかに出かけていまい、取り残されたダマは男の残り香がかすかに漂う寝室でむせび泣き、祈った。
「ああ神様、どうかあの人を私の許にお戻しください。あの人が永遠に私の傍から離れることのないよう、どうか力をお授けください!」
ある深夜。
男が久しぶりに家に帰ってきた。ところが、いつもなら出迎えてくれるはずの妻の姿がない。「チッ ダマのやつ、ご主人様のお帰りだというのに出迎えんとは、けしからんやつだ」
出迎えたら出迎えたで完全シカトするんじゃろが。ホンットにワガママなやっちゃのー。
「おいダマ、帰ってきてやったぞ!腹減ってんだ。さっさと飯の支度しろ!」
...シーン...
「おいダマ!聞いてんのかダマ!ダマってないで、何とか言えダマ!」
...シーン...
おかしい。結婚して以来、一度もこんなことはなかったぞ。男は心配になってきた。もちろん、妻の身を案じとるわけではない。ダマがおらんと飯が食えんからじゃ。
「ダマー、隠れてないで出ておいでー。ダマやー。ダマダマー」なんか猫探しとるみたいじゃな。
アセって家中を探しまくった男は、寝室に入った途端、ぴたりと足を止めた。今まで嗅いだことがない、なんともいえない甘美な香りが、部屋を満たしておったのじゃ。まるで魔法にでもかかったかのように、強烈な香りに誘われてフラフラと窓に近づき、身を乗り出した男が見たものは、窓に寄りそうようにして数千もの小さな星型の花を咲かせとる、高さ3メートルほどの低木じゃった。
「ダマ...」なぜだか知らんが、とっさに男はこの香り高き小さな植物がダマであると確信した。
以来、男は死ぬまで窓の傍を離れることはなかった。いや、離れることができなかった、と言うべきか。
やがて人々はこの謎の植物を「ダマ・デ・ノーチェ」と呼ぶようになったということじゃ。
にほんブログ村
人気ブログランキング