ジープニーの怪

ごきげんよう。クンクン博士じゃ。

戦後に米軍がフィリピンに置いていった軍用ジープを改造して作ったとされとる14~16人乗りの乗り合いタクシー「ジープニー」は、7~10ペソほどの小銭で手軽に利用できる便利な乗り物じゃ。最近は渋滞や公害の元凶とか言われて邪魔者扱いされとるが、南国の乗り物らしいカラフルでユニークな外観は、フィリピンの顔、庶民の足として昔から親しまれておる。

今回は、そんなジープニーの都市伝説を紹介しよう。

ロルナちゃんは、某有名大学の女子大生。勉強熱心な子で、今日も放課後に図書館で調べものをしとって、帰りが遅くなってしもうた。

「あっ、いけない。もうこんな時間だわ。早く帰らなくては」

校門を抜けて表通りに出たロルナちゃんは、ちょうど通りかかったジープニーに早速乗り込んだ。時刻は午前2時ちょっと過ぎ。乗客は彼女のほかに誰もおらんかった。

ジープニーというのはバス同様、大体走るルートが決まっておってな。このサイトの管理人みたいに酔っ払って行き先をろくに確認せずに乗り込むようなことをせん限り、特に何も言わなくとも目的地に必ず着くようになっとるのじゃ。

ところが、この日はちょっと違った。なぜか知らんが、ジープニーを発進させた運ちゃんが、血走った眼でバックミラー越しに彼女をチラチラッと盗み見ると思ったら、急に行き先を変えよった。ハンドルをひっきりなしに回して右折左折を繰り返し、目的地からどんどん離れていきよる。一体どこに行こうとしとるのか?

予期せぬ事態にロルナちゃんはテンパった。怖くて逃げ出したいけど、走行中の車内から飛び出したりしたら怪我しちゃう。それに、今ここで降りたら迷子になって帰れなくなっちゃうかも...で、でも、でもこの際そんなこと言ってられないわ。今降りないと、このまま人気のない暗いところに連れて行かれて、「げへへ、ネエちゃんいい匂いがするのぅ」とか言っていきなり襲ってきて、あんなことされて、こ、こんなこともされて...(脂汗)

「あ、あの...」降ろしてください、と言おうとして、ロルナちゃんは言葉を飲み込んだ。バックミラー越しにこちらを見つめる運転手の眼が今にも飛び出しそうになっておったからじゃ。ロルナちゃんは観念した。奴のただならぬ様子から、どうせ頼んだところで降ろしちゃくれまいと判断したんじゃろう。

が、やがてジープニーは従来の運行ルートに戻り、ロルナちゃんを拾った場所で停まった。

そして、先ほどまでずっと黙って運転しておった運ちゃんがくるっと振り向き、ロルナちゃんに初めて話しかけてきたんじゃ。

「お客さん...」

「いやああ!そんな大きいの入らないわ!あっ!そこは違う!穴が違う!」

「は?」

「あっ...いえ、な、何か?」

「先ほどはすみませんでした。ちょっと変なものを見てしまったもので...」

「へ?へ、変なものって...?」

「実は、バックミラー越しに見たあなたの首から上が消えていたのですよ...」

「え?...なに?...あ、あたしの...?」

「それで、なんとか悪霊を振り切ろうと、今まで走り回っていたんです」

「え?え?あ、あた、あたし、の、あ、あく、りょー、から、う、うえ、が、く、くび...?」今や別の恐怖にガッチリと羽交い絞めにされちまったロルナちゃんは、歯をカチカチ鳴らしながら意味不明の言葉を口走っとった。

「ご自宅に戻られたら、すぐに今着ているものを全て焼き払ってしまうことをお薦めします」運ちゃんはそう言うと、ロルナちゃんをその場に置いて走り去ってしもうた。こりゃ!降ろすんだったらちゃんと目的地で降ろしてやらんかい!

実は、フィリピンでは着ている服を燃やすことによって、自分の身に降りかかったアンラッキーを追い払う(他の者に押し付けちまう)ことができると信じられとるそうなんじゃ。え?ワシ?ワシはそんなの信じとらんよ。ちゅーか、そもそもワシは犬じゃから服なんぞ着とらんわい。そんなワシに何を燃やせっちゅーんじゃ?メガネか?尻尾か?

大体、服を燃やしたらアンラッキーから解放されると信じとるんじゃったらな、正月にみんなして素っ裸になってじゃな、町の焼却炉までパレードして衣服を燃やしちまえばよいのじゃ。「一年間の騒音を出し切ってアンラッキーを追っ払おう!」とか抜かして、爆竹なんぞ燃やして手足を吹っ飛ばすアンラッキーに見舞われるよりよっぽどマシじゃろが。こりゃ政府!さっさと爆竹を全面禁止にせんかい!1,000人近くも怪我人が出とって、「今年の爆竹被害は去年より少なかった。ヤホー」なんて喜んどる場合か?たったの数パーセントの差でなに浮かれとるんじゃ?この忌々しい爆竹のおかげで、ワシはいつもいつも新年を迎えるのが苦痛でしょうがないんじゃ!ワシだって立派な被害者なんじゃ!お願いじゃ!ワシを、ワシをこの苦痛から解放してくれぇぇぇ!

フーッ、フーッ

...

話を元に戻そうかの。

さて、慌ててタクシー飛ばして家に帰ったロルナちゃんは、早速自分の部屋に飛び込むと素っ裸になり、制服、ブラジャー、パンティーから生理用ナプキンに至るまで、その日身に着けておったものを全て焼き払ってしもうた。

それから数日後、ロルナちゃんはテレビのニュースで、件のジープニーの運ちゃんが事故で死んじまったことを知ったのじゃ。衣服を燃やさなきゃいけなかったのは、実はロルナちゃんではなく運ちゃんの方だったのか、ロルナちゃんにとりついとったアンラッキーを運ちゃんが背負い込んじまったのか、それはわからん。

Jeepney, Magallanes Drive, Intramuros, 2018 (01).jpg

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