ハリサボク爺のタバコ

ごきげんよう。クンクン博士じゃ。

フィリピンの真ん中、ビサヤ諸島はネグロス島に、高さ2,435メートルのカンラオンっちゅう成層火山がある。この火山は今でも活動中で、火口からモクモクと煙を吐いておる。

Mount Canlaon.JPG

今回は、歯がガタガタになっても禁煙する気配のないこのサイトの管理人のように、頑固に煙を吐き続けとるカンラオン火山の伝説を紹介しよう。

その昔、まだスペイン人がフィリピンに侵略にやって来とらんかった頃、ネグロス島にハリサボクと呼ばれる爺が住んどって、村人らから山の王と崇められておった。ハリサボク爺は地球上のありとあらゆるものを操る不思議な力を持っておった。

この爺には小人の僕たちがおって、爺が地面を3回ポンポンポンと叩くたびにどこからともなく現れては、爺の手となり足となって、どんなささいな命令も忠実に実行しとったそうじゃ。

白髪ボーボー、髭ボーボーの貧相な爺が、地面からぽこぽこ湧き出てきよる小人たちに命令しとる光景は、傍から見たらさぞ薄気味悪かろうと思うのじゃが、村人たちはそんな爺に並ならぬ敬意を払っとった。偉大なハリサボク爺が間違ったことを絶対にせんことを知っておったからじゃ。

そのうち村人たちが山の麓でタバコの栽培を始めおった。ハリサボク爺の協力もあってか、タバコはすくすくと育ち、村はおかげで大いに栄えた。

タバコの需要が増えるにつれ、タバコ畑もどんどん拡大していった。ハリサボク爺は土壌を豊かにし、子分の小人たちにも手伝わせ、とうとう山の半分以上がタバコ畑に変わっていった。村人たちは爺の協力に感謝しつつ、ますますタバコ作りに精を出すようになった。爺はそんな村人たちを温かく見守り、見返りなどは一切求めなかったが、ただ一点だけ、山頂近くのある地点からぐるりと山を囲むように線を引き、「この線から上はタバコを植えちゃいかんよ。ワシと子分たちのテリトリーじゃからの」と頼んだ。

偉大な山の王のただ一つの頼みじゃ。村人たちに異存があるわけがなかろう。村人たちはその言いつけを忠実に守った。かくして、山頂近くのある地点から下の部分だけがびっしりとタバコ畑で覆われとるという、ある種滑稽な光景が見られるようになったのじゃ。

ある日、ハリサボク爺が山に村人たちを集め、

「ワシはこれから長い間山を離れる。いつ戻って来れるか分からんが、ワシの留守中くれぐれも一線を越えちゃいかんぞ。もし言いつけを破ったら、お主らからタバコ畑を取り上げ、ワシが残らず吸い終わるまでここら一帯を雑草も育たん不毛の地にしてやるからの。」

そう念を押すと、地面をポンポンポンと叩いた。途端に地面がぱっくりと割れ、爺はその中に吸い込まれるように消えていった。

あれから村人たちは爺の言いつけを固く守り続けた。しかし、爺が山を離れてからかなりの年月が流れたにもかかわらず、いっこうに戻ってくる気配がない。「いったい、ハリサボク様はいつになったらお戻りになるのか?」とみんな訝しがっておった。「ついにボケて、迷子になってるんじゃ…」「女遊びに走って、腹上死しちゃったんじゃ…」と失礼なことを口走り、村八分になる者まで出る始末じゃった。

一方、その間にも村のタバコ産業は順調に発展を続け、「タバカンラオン」は今やフィリピンを代表する高級タバコブランドとして、国内はもちろん、日本やアメリカ、ヨーロッパなど世界中で飛ぶように売れるまでになった。今年の初めにリリースした新製品「タバカンラオン・スーパーウルトラライト0.0001mg」も爆発的にヒットし、注文が殺到した。こうして需要に供給が追いつかなくなり、タバコ畑を拡大する必要性に迫られるようになったんじゃ。

しかし、もうタバコを植えるスペースがない。大切なお客様のニーズにお応えして生産量を増やすには、あの禁じられた聖域を畑に変えるしかない。山の頂上を眺める村人たちの目つきは次第に血走りギラギラしてきた。かつての素朴で純粋な心は、タバコ産業の成功に驕り、金と名声に飢えたすさんだ心にすっかり支配されておった。

そして、ついに恐れておった事態が起きてしもうた。

「どうせハリサボク様はもうお戻りにならない!畑の生産能力はもはや限界だ!俺はやるぞ!」と叫ぶや、一人がとうとう線を越えて聖域にタバコを植えてしもうた。もうこうなったら誰にも止められん。皆が後に続き、山一帯がタバコ畑ですっぽりと埋まるまで、そう時間はかからなかった。

初めのうちこそ約束を破った後ろめたさでビクビクしとった村人たちも、その後なーんも起こらんので次第に安心しはじめた。しまいには約束自体をすっかり忘れてしもうて、相変わらず金儲けに明け暮れ、豪邸に住んでランボルギーニ・レヴェントンを乗り回しておった。

…だんだん時代設定がメチャクチャになってきとるが、気にせんでほしい。

しかし、爺はボケたわけでも腹上死したわけでもなかった。ある日突然、あの時と同じように地面がぱっくりと割れ、中からハリサボク爺がひょっこり出てきたのじゃ。そして、村人たちの脳天を真ん中からカチ割るようなドスの効いた声で「この(ピーッ)が!!」と怒鳴った。村人たちが脱糞するほどビビりまくったのは言うまでもない。

間もなく、鼓膜が破れるかと思うほどの大音響と共に山のてっぺんが吹っ飛び、大噴火が起こった。村人たちが手塩にかけて大切に育ててきたタバコ畑は跡形もなく消え去り、代わりにマグマと火山灰が辺りを覆った。ハリサボク爺が警告した通り、不毛の地と化したわけじゃ。村人は地獄のような光景を目の前にして、ただひたすら怯えるしかなかった。

あれから長い年月が流れ、山の麓の村もようやく復活したが、山は依然丸裸のままで、再びタバコが育つことはなかった。村人たちはかつての栄華を偲びつつ、煙を吐き続けておる山の頂上を見やりながら、いつかハリサボク爺がタバコを残らず吸い終わる日が来るのをじっと待っておるということじゃ。

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