妖怪ティクバラン
ごきげんよう。クンクン博士じゃ。
頭と足は馬、体は人間という風変わりな姿の「馬のUMA」ティクバラン(Tikbalang)は、フィリピンの山奥に住む大柄な妖怪の一人じゃ。リンボから地上に送り込まれた堕胎児の生まれ変わりという説もある。
「堕胎児がなぜ獣人に生まれ変わるの?」と疑問を持つ者もいるじゃろう。ワシが思うに、何も知らすに母親の胎内で育っている子供を堕ろして殺そうなんてことを考えるような輩は人間ではない。獣じゃ。いや、獣以下じゃな。じゃから天が愚かな人間への見せしめにティクバランを下界に送り込んだのじゃろう。いうなれば、この妖怪は畜生にも劣る行為をした人間自身が生み出した化け物なんじゃな。可哀想な奴なんじゃよ。ティクバランっちゅーのは。
生殖本能が旺盛なティクバランは、夜になると人里に降りてきては人間の女を犯して孕ませ、種族を増やそうとするという。この世に生まれ出ることが叶わなかった胎児の生まれ変わりだとすれば、さもありなん。
スペインに統治される前はフィリピンに馬などいなかったといわれておることから、スペイン人がフィリピン人を怖がらせるためにでっち上げた生き物とも言われておる。
ティクバランは人間の姿に変身したり、透明になったり、幻覚を見せて同じところをぐるぐる歩かせて道に迷わせたりと、様々な超能力を持っておる。奴の術にはまって道に迷わないようにするには、来ているシャツを裏表反対に着るといいらしい。ワシはそんなダサい格好はしたくないがの。
というか、考えてみればそもそも犬のワシはシャツなど着とらんのじゃった。いやいや、久しぶりに大ボケかましてしもうたのー。
大声で「通してくださーーーい!!」と叫びながら歩くか、騒音を嫌うティクバランを怒らせないよう、極力音を立てずに歩くかするといいとも言われておるが、この2つの方法は何かお互いに矛盾しておるような気がするの。大声で「通してくれ」と叫びながら歩いたりしたら、騒音を嫌うティクバランの神経を逆撫でしやせんか?逆に物音を立てないように黙って通り過ぎようとしたら、「挨拶ぐらいせんかい!」といちゃもんつけられやせんか?
ティクバランは刺のように尖ったたてがみを持っており、そのうちのぶっといものを一本手に入れれば、ティクバランを手なずけることが出来るという。ただし、ただ持っているだけではだめじゃ。野生の馬を手懐けるように、まず相手を屈服させ、誰が主人なのかを知らしめる必要があるらしい。
それには、ティクバランに飛びつき、「特別な材料で作った紐」を獣人に巻きつけねばならん。当然相手はしがみついてきた人間を何とかして振り落とそうとしてもがき、暴れる。やがて疲れ果てておとなしくなるまでしがみついていることが出来ればお主の勝ちじゃ。
なに?「特別な紐の材料」はなにかじゃと?知らん。マニラ麻とか、パンダンとか、ラフィアヤシとか、フィリピンで手に入るいろいろな繊維を縒って試すがよかろう。妖怪を手なずけるには、それなりの地道な調査と努力が必要なのじゃよ。
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