今はどうか知らないが、私が在籍していた頃のマニラ日本人学校(MJS)では、高学年の必須科目に英会話が組み込まれていた。
英会話の授業は主に現地人(フィリピン人)の先生が担当されていて、私のクラスも現地人の先生に教えていただいた。
とある英会話の授業中に、それは起こった。
私の後ろにいた級友が数人、授業中にこそこそと会話をしていた。
まあ、それ自体はよくある授業風景である。私もよく授業そっちのけでマンガを描いていたりしたので、人のことは言えない。
で、その級友らの会話から、突然「ブッタゲナ」という言葉が飛び出した。
おそらく「プータン・イナ」と言おうとしたのだろう。このタガログ語は、フィリピンでは迂闊に口にしてはいけない悪口である。状況によっては殴り合いの喧嘩にも発展しかねない、ヤバイ言葉なのだ。
会話の前後は聞き漏らしたが、言った本人は自分が発したタガログ語の意味をよく理解しておらず、誰かから聞いたのを軽い気持ちで口にしてみただけなのは、無邪気な彼の顔から明らかだった。幸いなことに、彼の声は先生の耳には届かなかった。
だが、問題はその後であった。
プータン・イナ⇒ブッタゲナ…!
忌むべき言葉ではあるが、いや、むしろ忌むべき言葉だと知っているがために、あまりにも斬新かつ緊張感に欠ける「ブッタゲナ」が、私の笑いのツボをピキーンと突いた。
さらにアホな事に、笑いながらつい級友の真似をして「ぶったげな」と声に出してしまったのだ。
私の声は比較的小さく、時々友人から「聞こえねえよ」と苦情が来るほどなのだが、こういう時に限ってよく聞こえるらしい。今度は先生の耳にしっかりと届き、普段は温厚な彼女の表情がみるみる険しくなった。
先生「ミスター・カワムラ!」
私「ビクッ!」(怯)
先生「あなたはその言葉の意味をよーく知ってるはずよね?」
私「は、はい…」(滝汗)
先生「では、こっちに来て、皆にその意味をよーく教えてあげてちょうだい」
こうして教壇に立たされた私は、「『プータン・イナ・モ』とは『お前の母ちゃん売春婦』っちゅー意味じゃ。とんでもない悪口なので、よい子のみんなは使っちゃいかんぞ?」と級友らにレクチャーするはめになってしまったのであった。
そして、この出来事がクンクン博士誕生のきっかけとなった…わけではない。
口は災いの元。諸君も気をつけよう。