昔、コンピューター関係の短期大学に通っていた頃、級友に誘われてマニラ市にあるフィリピン工芸大学(PUP)に柔道を習いに行ったことがある。

 

運動とスポーツが大の苦手な私を柔道に駆り立てたのは、級友の「コーチの女の子、メチャ可愛いらしいぜ」という言葉だった。

早速大学に出向いたところ、確かにメチャ可愛かったので、早速入部を申し出た。

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今はどうかわからないが、この頃は大学の部活に他校生が自由に参加することができたのである。

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しかし、せっかくスケベ根性丸出しで入部したのに、件のカワイコちゃんコーチが直々に手ほどきをしてくれたのはほんの数日。その後は血の気の多いむさい部員たちとストレッチ、受け身、ランニング、乱取りなど、厳しい基礎トレーニングと稽古の連続だった。元々運動音痴でスタミナのない私は、稽古中に貧血は起こすわ、足はつるわで醜態のオンパレード。柔道を舐めるとどうなるかをトコトン思い知らされた。私を誘ってくれた級友はというと、いつの間にか稽古に来なくなっていた。

 

そんなある日、部室の壁に一枚の垂れ幕が掛かっているのが目に入った。「祝!日比親善試合!」と書いてある。どうやら日本のどっかの柔道部と親善試合をするらしい。始めたばっかで虚弱で運動音痴、それも他校生である私には関係ない話、と思っていたら、意外な場面で関係することになってしまった。

 

試合に参加する主将が突然部室に入るや、なぜか練習相手に私を指名してきたのである!

 

突然のことに私は狼狽した。なぜ私?入門して僅か数週間、やっと受け身がサマになってきたばかりの運痴の私に、黒帯のアンタの練習相手なんか務まるわけないやん!他にうまくて頑丈な部員がいるってのに!ほらあそこに座ってる、カビテ出身の筋肉男!アイツの方が適任でしょうどう考えたって!

 

明らかに役不足の私を指名した理由として考えられることは2つ。

1)部員で唯一の日本人をぶん投げることで、試合への士気を高めたいから

2)部員で唯一頑丈な道着を着ているから

 

上記2)について補足すると、フィリピンでは本格的な道着は入手困難らしく、ほとんどの部員が安物のTシャツみたいに薄い道着を使っていた。そのため、乱取りの度にビリビリと破れてしまうのである。一方、私が着ていたのは、合気道を習っていた姉貴のお下がり。日本で購入したもので、不幸なことに彼らのものとは比較にならないほど頑丈に作られていた。

 

要するに、思いっきりぶん投げても相手の道着を破壊してしまう心配はない、というわけだ。ただ、ここで重要なのは、道着の持ち主を破壊してしまう心配も全くしていない、という点である。

 

こりゃたまらん、と思い、何とか理由を付けて辞退しようと立ち上がったその時、外の廊下で女子大生らの声が聞こえた。

 

「知ってる?柔道部に日本人がいるんだって!」「本当!?日本人って空手とか柔道とかメチャ強いんでしょ?カッコイイ!」「あっ!もしかして今立ち上がったあの人?凄い!主将と対決するみたいよ!」

 

窓越しに投げかけられる、女子大生らの期待に満ちた熱い視線。さらに不用意に立ち上がったことで、自然と主将に向き合う形になってしまった私は、事態がもはや回避不可能であることを悟った。そして部室に無情に響き渡る、カワイコちゃんコーチのダメ押しの一声:「ヨーイ、ハジメ!」

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結果はお察しの通り。畳に数回たたきつけられて肺の中の空気を出し尽くし、ピクリとも動かなくなった私を見た野次馬女子大生たちは、一人、また一人と姿を消していったのであった。

 

不純な動機で神聖なスポーツを穢した罰を思わぬ形で受けることになったわけだが、柔道部でしごかれたおかげで、ちょっとは根性がすわったような気がする。他校生らとの交流もできた。PUP柔道部の皆さん、ほんの短い間でしたが、貴重な体験をどうもありがとう!

 

おしまい

 

注:記事中のマンガは半分フィクションです。実際にスパイダーマンになったわけではありません(笑)