バナナは、マンゴーやココナツと共にフィリピンの経済を支えとる果物じゃ。日本にもたくさん輸出しとる。独特の甘みがあり、皮を剥くだけで種を気にせずに食える手軽さが魅力じゃ。

 

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By Augustus Binu, CC BY-SA 4.0, Link

 

一口にバナナ言うても、デザートとして最もポピュラーなキャベンディッシュやラカタン、小さめなラトゥンダン(モンキーバナナ)、料理に使われるサバなど、様々な種類がある。

 

今回は、そんなバナナの起源に関する伝説を紹介しよう。

 

昔々、フィリピンのある田舎に、若くて美しい女子がおった。

 

…まあ、この手の民話に出てくる女子は、たいてい若くて美しいのじゃが。

ワシが入手した伝説にはこの子の名前は記されておらんのじゃが、便宜上「キャサリン」と呼ぶことにする。

 

で、最近キャサリンが住んどる村に、超イケメンの男子が出没するようになった。

 

まるでどっかの国で整形でもしてきたかのような整ったルックス、育ちの良さがひと目で分かる気品に満ちた言動、鼻をほじる姿すらセクシーに映る優雅な物腰、どこか愁いを帯びたミステリアスな雰囲気。キャサリンの村の者ではないことは明らかじゃった。

 

「信じられない!この世にこんなに美しい男性がいるなんて…」

 

類まれなる美貌と明晰な頭脳で、ミス・ユニバースやミス・アースなどの美女コンテストに出れば常に優勝、ツイッターをすれば何百万人ものフォロワーがつき、フェイスブックをすれば友達申請が殺到し、世の男子達のオカズになっとる天下の美少女キャサリン。大勢の男たちの求愛攻撃に辟易し、男嫌いにさえなっとった彼女が、瞬時にこの謎の美青年の虜になってしもうた。それだけ人間離れした容姿と強烈な魅力を備えておったんじゃ。

 

彼を見かけたその日から、キャサリンの頭の中は寝ても覚めても彼のことばかり。他の何も手がつかなくなってしもうた。

毎日彼の出没スポットで待ち伏せしては彼の前をさり気なく通り過ぎ、ある時には迷子になったペットを探しとるフリして彼の周りをうろちょろし、ジープニーでは前座席のバックミラー越しに彼をチラチラと覗き見し、彼のツイッターやフェイスブックやブログを分単位でチェックし、彼に言い寄る女どもには片っ端から脅迫メールを送りつける徹底ぶりじゃった。キャサリンのスマホの待ち受け画面には、どうやって撮ったのかしらんが、公衆便所の便器に座って優雅に力んどる彼の画像が表示されておった。

 

こうなると立派なストーカーじゃな。

 

そんなキャサリンが、謎の美青年から求愛された。彼女が速攻でOKしたのは言うまでもない。

 

「ボク、実はこの村の人じゃないんだ」と彼は言った。そんなの、見りゃ分かるわよ!大体、あなたのような洗練された超イケメンが、唯一の近代的な施設がコンビニっていうこの糞ド田舎の出身なわけないじゃない!

自分がその糞ド田舎の出身だっちゅーことを、この子はコロッと忘れとるらしい。

 

「ボクはそう、もっと遠い…とっても素晴らしい世界から来たんだ。そこではすべてが公平、平等で、人々は決して争うことはない。犯罪、政治家らの汚職、環境破壊などとも一切無縁…」

 

付き合い始めて以来、この謎の美青年のデートでの話題は、バカの一つ覚えみたいに「ボクが住んでる素晴らしい世界」のことばかり。口を開けば『地獄先生ぬ~べ~』の秀一君に負けるとも劣らない自慢話のオンパレードに、普通の女子なら「何こいつうぜえ」とドン引きするところじゃ。

 

が、謎多き…っちゅうか、名前すらガールフレンドに教えん、どこの馬の骨とも分からん胡散臭い奴に盲愛状態のキャサリンには、彼の地元自慢など全然苦にならなかった。むしろ、ガールフレンドの特権で隣に座らせていただき、瞳を輝かせながら興奮気味に喋くりまくる彼のゾクッとするほど色気を帯びた美しいお顔を身近で拝見し、メル・ギブソンばりの渋い声を拝聴し、身動ぎする度に立ち昇る香ばしい体臭をクンクン嗅がせていただけるだけで、天にも昇る心地じゃった。完全無欠の彼が「人間臭さ」を見せる唯一の時でもあったのじゃ。

 

耳にタコが出来るほど聞かされる「ボクが住む世界」は、聞けば聞くほど素晴らしい。ちゅーか、素晴らしすぎる。天災が起きない、病気にならない、なんでも揃ってる…まるで桃源郷か天国のように、この世ではあり得ないほど理想的な世界なんじゃなこれが。

 

今まで「わー、そうなんだすごーい」「この糞ド田舎とは大違いねー」と無邪気に相槌を打っておったキャサリンにも、さすがに疑問が湧いた。

 

そんな完璧な素晴らしい国があるなんて聞いたことない。ていうか、他人に自慢したいほど素晴らしいところなら、なにが悲しくてあなたはこんな糞ド田舎にいるの?そんなの、まるでお国自慢ばかりしてフィリピンをボロクソ言ってるくせに、何故かフィリピンにとどまってる在比邦人のオッサンみたいじゃないの。

 

でも、あなたがウソを言ってるとは思えないし、妄想にしては具体的だし…ってことは、ひょっとしてこの世界とは別の、異次元の世界…?とすると、あなたは…この世界の人じゃない…?

 

今まで彼の名前さえ聞かずにいたキャサリン。「超イケメンが私を愛してくれている」それだけで充分満足しとった。

 

じゃが、一旦彼女の中に芽生えた疑問は膨らむばかり。キャサリンは、初めて彼に問うた。

 

「ねえ…あなた、一体何者なの…?」

「…!」謎の美青年は、恋人が初めて発した自分に対する問いにギクリとしたように急に自慢話を止め、沈黙した。明らかに狼狽し、その美しい顔が苦悩に歪んだ。

「あ、ごめんなさい。あなたの話の腰を折るつもりはなかったの…」

「…」

「ね、ねえ、怒ったの?私のバニラアイスあげるから、機嫌を直してよ。ねえお願い」

 

子供に物をちらつかせて勉強させる親みたいなこと言っとる。普段は周りからチヤホヤされとる立場におるんで、こうした事態には慣れとらんらしい。

やがて、彼が再び口を開いた。じゃが、出てきた言葉はいつもの地元自慢ではなかった。

 

「とうとう君はボクのことを聞いてしまったね…ボクはもう君とは会えない…さようなら…」

 

え?え?ちょっと待って?アタシの質問、そんなにヤバイものだったの?「アンタ何者?」なんて、敵キャラを尋問するような聞き方したのがマズかった?「どちら様でしょう?」のほうが良かったの?

 

何の前触れもなく訪れた破局に、明晰なはずのキャサリンの頭脳は混乱した。

 

「もうこうなったら仕方ない。何もかも話すよ。実はボクはこの世界の…人間界の住人ではない。小人の世界の王子なんだ」

こ、小人…?でもあなた、アタシよかデカイじゃない!デカイのに小人?小人なのにデカイ?

 

キャサリンの頭脳はさらに混乱した。

 

「…人間界に興味を持っていたボクは、人間に姿を変えてはちょくちょく遊びに来ていた。そしてある日、この世で最も美しい女性に出会い、恋に落ちた…キャサリン、君だ」

「ボクは父上に君のことを話した。そして『もしその人間がお前のことを一切聞かず、ありのままのお前を受け入れたら結婚するがいい。だが、一言でも質問してきたら、即刻諦めて戻ってこい』と言われた」

 

ありのまま?そういえば、そういう主題歌の映画があったわね…ええと、なんだっけ?『雪穴』?

キャサリンの頭脳はなおも混乱し、思考が全然関係ない方向に飛んでってしもうた。

 

「すべてボクの責任だ…我々の世界のことを君に話しすぎて…逆に興味を抱かせてしまった…」

 

…(ブチッ)当たり前じゃバカモン!あれだけこの世に存在しない世界を「オレってこんなにワンダホーな所から来たんだぜ~いいだろ~どこだか知りたい?ねえ知りたい?」みたいな感じで自慢しまくっとったら、そりゃ「アンタ一体どっから来たの?」ってなるわい!それどころか、ヘタしたら病院に連れて行かれるところじゃぞ!

 

大体、名前すら聞いちゃいかんって、なんじゃそりゃ?人間界を舐めとんのか?な~んも自分のことは言わずに「ありのままのボクを受け止めて」なんて、そんな虫の良い話が人間界で通用するわけないじゃろ!アリですら触角で相手を確認し合っとるんじゃぞ!

 

それでも、キャサリンは今までずーっと黙ってお主のツマラン自慢話に付き合っとって、な~んも質問せんかったんじゃぞ!「自己中自慢妄想野郎」のお主を素直に受け入れとったじゃろが!一体いつまでお主の素性を聞かんかったらよかったんじゃ?期限はいつだったんじゃ期限は!


フーッ、フーッ

 

…話を戻そうかの。

 

「あ…もうすぐ夜が明ける…もう行かなきゃ…」ダメよオオォォ!ダメダメエエェェ!

「アタシも一緒に行くうう!」

 

彼の最後の言葉に我を忘れたキャサリンは辺り構わず泣き叫び、とっさに彼の両手をぎゅっと握りしめた。じゃが、彼女の悲痛な叫びも虚しく、日の出と共に小人の王子は徐々に消えていき…

 

ずっと握り続けていた愛しい恋人の手だけが消えずに残った。

 

不思議なことに、彼の手は小人サイズに戻らず、人間サイズのままじゃったそうな。

 

「なによおぉ…ちょっと聞いてみただけじゃなあぁい…」あまりにも理不尽で唐突な別れに納得できないまま、その場にうずくまって号泣するキャサリン。やがて泣き疲れて涙を拭うと、恋人の残していった両手を地面に埋め、その上に石を載せて墓標とした。そして毎日「あの人の手の墓」を訪れては、彼と過ごした日々に思いを馳せていた。

 

数日後、ある変化が起きた。

 

いつものようにキャサリンが墓に行くと、そこに今まで見たことのない植物が生えておったんじゃ。それが恋人の手から生えてきたものだと直感した彼女は、その謎の植物を大切に大切に育てていった。

 

これが鬼太郎の手だったら、とっくの昔に土の中から這い出して、持ち主の元に戻っておるところじゃがな。


やがてその植物は大きな木となり、実をつけた。キャサリンはまるで人間の手のような形をしたその果実に恋人の面影を見つけ、甘く濃厚な味に彼の愛の深さを知った。

 

その後、人々はその植物を「バナナ」と呼ぶようになったということじゃ。

 

…っちゅーことで、お主らが食べとるあのバナナ、あれは実は小人の手だったんじゃな。想像するとちょっと怖いのう。

え?キャサリンがあの時、手じゃなくて『男の大事な部分』を握っとったらどうなってたかって?知らん。そういうのはワシにではなく、管理人に聞いてくれ。