ルソン島はパンパンガ州にそびえる、高さ1,026メートルの成層火山アラヤット(Arayat)。ハイキング地として地元の民に親しまれとるこの山は、氷河期が終わりを告げた完新世に噴火して以後、一度も噴火したことがないそうじゃ。

 

 

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フィリピンの有名な山々には、「ディワタ(Diwata)」と呼ばれる守護精霊の伝説がつきものじゃが、アラヤット山にもマリア・シヌクアン(Maria Sinukuan)っちゅー女神の伝説がある。

 

古代からアラヤット山の豊かな緑と多くの動物たちを守ってきた美貌の守護精マリア・シヌクアンは、麓に住んでおる人間たちにも惜しみなく愛情を注いだ。時々山から下りてきては、生活に困っとる村人らの家の戸口に果物をそっと届けておったんじゃ。

 

背中まで伸びた艶やかな黒髪。健康的な小麦色の肌。キラキラと煌く慈愛に満ちた目。整った形の鼻、ふっくらとした愛らしい唇。身を包む布の上からもはっきりと分かる完璧なプロポーション。近寄り難い神々しさと近所のお姉さんのような親しみやすさが無理なく同居した、なんとも不思議な雰囲気を漂わせておった。

 

口元に笑みを絶やさず、怒った顔など見たことがない。己の美貌と知性に決して驕ることなく、参加券入りの特別CDを買わなくても握手が可能。当時ガキンチョらの間で流行っとった「スカートめくり」っちゅー悪戯にも、キャーキャー言いながら笑って逃げまわるだけ。それがガキンチョらのS心をさらに刺激し、集中攻撃を受ける始末じゃった。

 

心優しいシヌクアンちゃん。彼女の望みはただひとつ、自然と人間の共存だった。

 

しかし、そんな情け深い女神様への感謝と畏怖の気持ちを忘れ、彼女の好意にションベンかけて後ろ足で砂かけるような出来事が起きた。

 

村の不良グループが、シヌクアンちゃんの施しだけでは満足できず、より多くの食糧を求めてアラヤット山の彼女の住居に押しかけよったんじゃ。

 

「もっとあるんだろ?ケチケチしねえでさっさと出せオラ!」

 

女神様の自宅に強引に押し入り、椅子やテーブルをひっくり返し、食器を床にぶちまけながら暴れまわる不良グループ。

 

一方、お気に入りのパンパンガ産パロルを叩き壊されても、「今日暑くね?」とか言って冷蔵庫に入られても、少しも動揺した様子を見せない冷静なシヌクアンちゃん。

 

騒ぎが鎮まるのを黙って辛抱強く待っていた彼女は、穏やかな声で「分かりました。ではちょっと一緒に来てください」と言うや、辛うじて破壊を免れたパンパンガ産の大籠を肩にかけ、さっさと森に向かって歩き出した。

 

森の奥に辿り着いた女神様は、不良グループの目の前でさっそく驚異的な運動能力を発揮。近くの木にスルスルと登るや、俊敏な雌猿のごとく、木から木へと飛び移っては、果実を籠の中にポンポンと放り込みはじめた。

 

気品に満ちた清楚な美女の、野獣のような身のこなし―その著しいギャップがむしろ強烈なエロチシズムを発散し、彼女の妖艶な美しさを一層際立たせておった。

 

若い衆は、頭上を舞う彼女の華麗な動きに見惚れてアホみたいにその場につっ立っとったが、時折チラリと見える彼女のパンティーをチェックすることだけは忘れなかった。

 

こうして不良グループにたんまりと果実をくれてやったシヌクアンちゃんは、「これからも欲しいだけあげますけど、ちゃんと山の守り神である私の許可を取ってくださいね」と言い残し、去って行った。

 

このままおとなしく山を下りとればよかったのじゃが、限りなく欲張りな不良グループは、女神様からパンチラも含めて充分すぎるほどの恵みを受けたにもかかわらず、様々な種類のうまそうな果実たちがワンサカなっとるのを眺めとるうちにもっと欲しくなった。「なぁーに、こんなに沢山木の実がなってるんだ。少しぐらい無くなったって分かりゃしねえって」と、早速女神様との約束を破って勝手に果実をもぎはじめたんじゃ。慈悲深いシヌクアンちゃんが彼らの横暴を許し、あまりにもあっさりと彼らの要求を受け入れたんで、「女神を屈服させてやったゼ」と勘違いしたのかもしれん。

 

しかし、それからも信心を忘れた村人らによる山への冒涜は続いた。満足することを知らず、どす黒い欲望に任せた自然資源の無駄遣いに、さすがのシヌクアンちゃんもついに堪忍袋の緒が切れ、山の植物たちや動物たちと共に、その姿を永遠に消してしまったそうな。

 

欲っちゅーのは、一度持っちまったらキリがない。必要以上に求めないことが、心の平安を保つ鍵なんじゃよ。

 

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