フィリピンでは、今まで元気だったのに、例えば家に人が入ってきた時に突然具合が悪くなった場合、その外から戻ってきた人を媒体として、自分に恨みを持つ何者かに呪いをかけられたのだとする迷信がある。

 

これを「クーラム(Kulam)」という。タガログ語で「魔法」という意味じゃな。魔法をかける者、つまり魔女を「マンククーラム(Mankukulam)」という。

なに?魔法をかける者は女だけじゃないじゃと?ま、それはそうじゃが、魔男(まだん)などという言葉は聞いたことがないぞ。魔男(まおとこ)も、魔法よりも夜這いのほうに走りそうでしっくりこんじゃろう?

 

ま、そんなことはひとまず置いといて、話を進めよう。

 

地方ではこのクーラムを信じている人が結構いて、原因不明の病に罹ると「クーラム」にかけられたということで、アルボラリオ(古くから伝わる伝統的な治療法で患者を治す人)のもとに駆け込む。

ワシにもこんなことがあった。

 

ある日、ワシが外から帰ってくると、お手伝いさんが部屋から苦しそうな顔を出してワシを呼んでおる。
「何事じゃろう」と思って彼女の部屋に入ってみると、彼女いわく「あなたが帰ってきたら急に胸が苦しくなった。クーラムにかかったにちがいない。」

 

呪いを解いてくれ、と言うのじゃ。実際、彼女は喘息患者のようにぜーぜーと音を立てて息しとって、本当に苦しそうじゃった。

 

しかし、突然そんなことを言われても、何をどうすればよいのかワシャ判らん。また、ワシのせいで病気になったというのも面白くない。じゃが彼女は実際に苦しんでおり、ワシに助けを求めているのじゃから、何かをしてやらんわけにはいくまい。

 

途方にくれてしまったワシは、「えー、インダイちゃん(仮名)、呪いを解くにはいったいどうすればいいんじゃの?」と彼女に聞いた。すると、

「あなたの人差し指につばをつけて、私の頭と、胸の真ん中と両肩に(ちょうど十字を切るような形で)なすりつけてください。」とのことじゃった。

 

「マジですか?」と思ったが、それで彼女の具合がよくなるなら、と言われた通りにワシのつばをぴちょ、ぴちょ、とつけてやったわい。

 

その後、しばらくして彼女は回復したが、それがワシのつばのおかげなのかどうかは知らん。

 

なに?そんな話信じられんじゃと?この話はな、実は実話なんじゃ。決してケンのように駄ジャレを言っておるわけではないぞ。