長年人の手が入らず、荒れ果てるに任せた草むら。そんな場所にむやみに入り込んではいかんぞ。知らない間にヌーノの棲家を侵してしまう恐れがあるからの。

 

「ヌーノ(Nuno)」または「ヌーノ・サ・プンソ(Nuno sa Punso)」は、老人の姿をした小さな生き物だといわれとる。普段はめったに姿を現すことはない。素性も寿命も棲家の場所も不明。岩の下に潜んでおるとも、我々とともに人家に隠れ住んでいるとも言われとるが、プンソ(「蟻塚」の意)の中に棲んどるっちゅーのが定説なので、ヌーノの身長は蟻と同等か、それよりも小さいのかもしれん。蟻にとってはこの居候のおじいちゃんはアリがた迷惑に違いない。

 

ヌーノは自分の棲家を荒らされることを極端に嫌う。うっかり彼が棲んでいる蟻塚を踏んづけたりでもしたら大変じゃ。怒ったヌーノに恐ろしい呪いをかけられてしまう。草原の中を歩き回った後、夜に突然脚が腫れてしもうたら、ヌーノの呪いにかかってしまったと見て良いじゃろう。

 

むやみやたらに立小便をするのも考えものじゃ。うっかりヌーノの棲家に小便をかけてしまうと、お主の大切なモノが目も当てられない状態になってしまう。この点は日本の「ミミズに小便」の迷信に共通したものを感じるが、自分の持ち物に自信が持てない者は、思い切って試してみるといいかもしれん。ただし、結果については一切責任を負いかねるのでそのつもりで。

 

ヌーノの怒りを買わないようにする方法は簡単じゃ。棲家がありそうなうっそうとした草むらや岩場にむやみに立ち入らなければよいのじゃ。特に蟻塚には気をつけたほうが良い。

 

しかし、どうしても立ち入らなければならないような場合には、「タビタビポー(「すみませーん、通りまーす。退いてくださーい」の意)」と声をかけながら通ること。こうするとヌーノが通行人に気づいて退いてくれるといわれとる。子供の頃から目上の者、特に老齢者に対して敬意を払うよう躾けられとるフィリピン人らしい予防法だといえる。